『杉は日本人誰しもが林として、また木材として一番身近に慣れ親しんできた木である。「日本は稲と杉の国」と評した識者がいた。その学名にクリプトメリア ヤポニカと名付けられている通り、日本独特の木でスギ科に属するスギ属の木だが、その属の中にただ一種しかない珍しい例とされてきた。』
(上村武著「木と日本人」p33)
上記の書き出しで、「木と日本人」の【杉】の項目は書き出されています。
日本という国の最も日本らしい木は何か?と問われ、杉と答える方が増えていただけたら嬉しいと思います。
「まっすぐ伸びる」という意味で直木(すぎ)という言葉から名前が定着したと言われています。
まっすぐ伸びる木というだけで、太古の昔から木材としての利用価値が高く、例えばノコギリがない時代の登呂遺跡の遺構では、「割る」ことで上手に杉材を活用した製品が多く出土しています。中でも何万枚もの畦道用の矢板(土が崩れたり水が入り込んだりするのを防ぐために、並べて打ち込む、板状の杭のこと)などは、驚くべき規模で、古くから日本人が杉林のそばに住み、杉を活用してきたことを証明しています。
花粉症の一部の引き金にはなっておりますが、都道府県ごとの杉植林率と杉の花粉症発症率には相関関係がないということも言われるようになり、一種の都会病と言われることもあります。
最近では都会の街路樹に使われることは無くなりましたが、古くは東海道や中山道などの街道には杉並木が植えられました。今でも、日光の杉並木は現存しており、有名です。
杉は排気ガスに弱いという特徴があり、現代の人の暮らしのそばでは育ちにくくなってしまっているようです。杉は悪者、というイメージだけでなく、杉も人によって生息域を制限されていることを知ってもらえれば、と思います。
最近の住宅では和室の部屋数が減少しているため、手間をかけて育てた杉は使用量の減少、価格の低下に直面しています。
外国からは杉の代替え材が安価で大量に輸入されており、国産の杉は今の価格では造林費も手入れ費もでてこないという現実が、山や林の放棄に拍車をかけてしまっています。
大量に日本の山に眠っている「杉材」をどのように活用していくかは、日本林業の運命を左右する大問題であるにもかかわらず、一般の方にはまだまだ広まっていません。
稲と杉の国だった日本は、だんだんと稲と杉から離れていってしまうと思うと、寂しく思います。
杉材は建築では柱材を始め、あらゆる用途に使うことができます。
辺材の白さと心材の赤さが混じりあった板材は、非常に美しいコントラストで「中赤」や「源平」などの名前で重宝されています。
適材適所に木材を使いこなし、美しい空間を作る建築の仕事は、杉材無くしては考えられません。
どうぞ多くの方に、まずは杉や杉材に興味を持っていただけましたら幸いです。
長谷川
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