冬の寒さが和らぎ、春の訪れが感じられるようになってきました。
桜咲く春が待ち遠しい、そんな気持ちで、「桜の樹」についてまとめてみたいと思います。
桜の種類でポピュラーなものといえば、エドヒガン、ヤマザクラ、ソメイヨシノ。
桜の樹と一言で言いましても、実は「サクラ」という樹種はありません。
バラ科のサクラ属中のサクラ亜属の樹木を包括的に「桜の樹」と呼んでいます。
サクラ属には世界で3000種類以上、日本には300種類以上!もあると言われています。
世界的に見ればサクラはさくらんぼの取れる果樹を指すことがほとんどで、花を観賞する日本の桜は珍しいもの。そのためか、桜の花は日本を象徴するシンボル、国花にもなっています。
エドヒガンとヤマザクラは日本に古来から自生する野生種、ソメイヨシノは人工的に交配されてつくられた園芸種です。川岸や公園に植えられ、桜の花見と言えばソメイヨシノがほとんどです。
ちなみに “エドヒガン” の名前の由来は、「江戸の彼岸の頃に咲くから」。
“ソメイヨシノ” は幕末の頃、「染井村で吉野の桜として売り出したから」。染井村は今の東京都駒込あたり、吉野は当時から桜の名所として有名だった奈良県の吉野山にちなんだそうです。
実際は吉野の桜ではなかったそうですが、ネーミングのおかげか日本全国で流行してしまいました。
木工材料として長火鉢にし、樹皮は細工に使い、内装材として床柱や上り框に使うなど、昔から日本人は暮らしの中で桜と深く関わってきました。
木工で使うサクラの材には、ヤマザクラが好まれます。
堅く緻密で、狂いもない良材として昔から有名でした。
歴史的にも、浮世絵や瓦版の版木にあえて使われていたということから、ヤマザクラの長所が伺えます。
刃の通りが良く、深く彫ることができ、角が崩れない。反りも少なく狂わない。使う間に多少減ってきても、また彫り直すだけの厚みが取れるからです。
これらの長所は、家具材としての長所となります。
さらに磨くだけで光沢が出る艶(つや)や、着色せずに使用することで木そのものの味が出ることから、近年、より家具材として非常に好まれるようになりました。
☝ヤマザクラ材の木材サンプルです。
ラビーダが家具材として、2016年からオススメしている材料です。
上品な赤味は経年とともに深みを増し、磨くことで光沢が生まれます。
ヤマザクラは東北で多く取れることから、地産地消の高品質の家具材と言えます。
☝対比として、ミャンマー産チーク材の木材サンプルです。
ラビーダでは以前から家具材としてオススメしていたチーク材ですが、近年、チーク材の輸入量は激減し、非常に手に入りにくい材料になってしまいました。
北欧では色が濃く水に強いことから、家具材として非常に好まれてきましたが、ヤマザクラ材もまた、同様の魅力を持った木材と言えます。
☝ヤマザクラ材を使って作られた、ラビーダの「aテーブル」です。
サクラ類の中でも特に量の少ないヤマザクラ材。
現在、市場に多く出回っているサクラ材のほとんどは北海道産のシュウリザクラ材ですが、ラビーダのテーブル材のサクラは、すべて東北産のヤマザクラ材を使用しています。
サクラがカバで、カバがサクラと呼ばれています。
ところで、世の中に出回っているサクラの家具のほとんどは、カバ材が使われていると言われています。サクラは量が少なく、その代用樹としてカバが使われたことから、カバ材をサクラと呼ぶ習わしが生まれました。 “カバザクラ” や “ミズメザクラ” と呼ばれる材は、実はカバ材の一種なのです。
カバの材をサクラと呼ぶのとは反対に、ヤマザクラの樹皮を貼った工芸品は、樺細工(かばざいく)と呼ばれます。古くは正倉院御物にもサクラの皮を使った工芸品も見られる日本独特の細工です。
サクラの樹皮の工芸品を樺と呼ぶようになったルーツには諸説あり、樹皮(かわ)を使うことから樺(かんば)に転用したとも、アイヌ語でサクラを指す「カリンパ」から来てるとも言われています。樺の木の樹皮は油分があり火付きがいいので、昔から火種として重宝されていました。カバもサクラも、樹皮を活用する木材ということで共通しているため、語源が近いことが考えられるそうです。
福島県民にとって「三春の滝桜」は、とても身近で有名な桜の大樹です。
滝桜(たきざくら)は、エドヒガン系の紅枝垂桜(ベニシダレザクラ)で、大正11年10月12日、根尾谷の淡墨桜(うすずみざくら:岐阜県)・山高神代桜(やまたかじんだいざくら:山梨県)などとともに国の天然記念物の指定を受けました。
天然記念物に同時に指定された5本の桜により「日本五大桜」、あるいは、うち3本により「日本三大桜」と呼ばれています。
滝桜の今年の開花予想は4月15日とのこと。
春はもうすぐ。
この季節にぜひ、花だけでなく「木」全体としての桜にも、興味を持っていただく機会になりましたら幸いです。
長谷川
【参考文献】
・「木と日本人」上村武 著(学芸出版社)p21〜p26、p123〜p128
・「原色インテリア木材ブック」 宮本茂紀 編(建築資料研究社)p37、p73、p74
Tweet
|
|