こんにちは、長谷川です。
現在、ラビーダがオリジナルで製作している椅子は二種類。
ひとつは、アイナーラーセンのデザインした椅子を日本人のためにリデザインした、Lチェア。
そして、ボーエモーエンセンが誰もが使える安価な椅子としてデザインしたJ39のように、現代の日本で誰もが長く愛着を持って使えるようにとの思いでデザインされた、Aチェアです。
今回はAチェアについて、少し詳しく説明してみたいと思います。
Aチェアをデザインする上で、ラビーダが最もこだわったことはコストパフォーマンスです。
いかに安価で、まっとうな椅子を作るか。
ボーエモーエンセンの作ったJ39のコンセプトも同じだったのですが、2014年現在、復刻されている現行品のものの価格は50,000円以上、当時製作されたビンテージのものになると70,000円前後の値段になってしまいます(ビンテージの値段はだいたいの相場です)。
普通の感覚だと少々お高く感じてしまいますよね。
なるべく手軽な値段で、一生モノの椅子を作ることはできないだろうか。そんなチャレンジシップをもって作られた椅子がAチェアなのです。
Aチェアがデザインされたのは2008年。
形を参考にした椅子は50年以上前の3脚の北欧の椅子です。
左から、ウェグナーのW1、Aチェア、製作者不明のビンテージの椅子、ウェグナーのCH-33。
【Aチェア】
(参考価格:税抜き36,000円)
【ウェグナー:W1】
脚部と座面の構造を参考にしました。
(参考価格:税抜き180,000円)
【製作者不明:デンマークビンテージの椅子】
佇まいや経年変化による構造の劣化具合を参考にしました。
(参考価格:税抜き53,000円)
【ウェグナー:CH33】
カールハンセン社によって現行品が今でも作られています。
作りがAチェアに近く、フォルムが美しい椅子です。
(参考価格:税抜き69,000円)
【背もたれ】
参考にした椅子は全て背もたれが弧を描いた半月型。
この形は、背中を包み込む形なので体を支える面積が増え疲れにくいという特徴の上に、椅子を持ち運びするときに手をかけやすいので便利です。
持ち運びが楽、ということは使っていてより軽く感じるので普段の生活でストレスが減ることに。
ウェグナーのW1の背もたれは無垢材で出来ています。
上の写真は左側がW1本体、右側が背もたれを作るために必要な木材の大きさです。
多くの木材が削りかすとしてゴミになってしまいます。
無垢材を削り出した方が、三次元的な曲面を作ることができるので快適性はあがりますが、材料と手間が多くかかってしまいます。また無垢材のため重量も出てしまいます。
Aチェアの目指すところは、快適な座り心地と、バランスのとれた価格です。
合板を使ってW1の座り心地に近づける努力をしました。
今まで作った背もたれのサンプルは十種類以上。
形だけでなく、木目の出方にもこだわりました。
【背もたれのリニューアル】
(現行の背もたれ)
現行のモデルは芯材はビーチ材、表面はナラ材の突き板を張っています。
また木材の木目を交互に張っていたので、断面が明らかに合板だとわかってしまう構造でした。
(新しい背もたれ)
今回より質感を改善するため、背もたれをリニューアルしました。
積層する材は全てナラ材、木目も平行張りに。
これにより一見すると無垢材のような表情になります。
【背もたれのジョイント:雇い核(やといざね)】
背もたれを支える構造は雇い核(やといざね)という技法を使っています。
面で支えることができるため、木ダボでジョイントするよりも頑丈に接合することが出来ます。
こちらはCH33の背もたれを正面から見たところです。
多くの椅子では背もたれを固定するために、直接金属のビスを打ってしまうことが多いです。
そのため、ネジ頭を隠すため丸い木材が背もたれに埋め込まれています。
Aチェアでは、ビスを使用しないため表面にそのようなネジ隠しはありません。
なるべく自然な木目を傷つけることのないようにと試行錯誤した結果、雇い核の技法にたどり着きました。
【背もたれの高さ】
背もたれの適切な高さもひとつずつ確かめるため、可動式のサンプルを製作しました。
数mm単位で高さを調整することで最も疲れにくい高さを割り出しました。
【隅木】
Aチェアの座面の裏には4つの隅木が入っています。
左から、W1、Aチェア、製作者不明のビンテージ、CH33の座面の裏です。
隅木が入っているのはW1とAチェアだけです。
座面は体の曲線にフィットするように柔らかな曲面になっています。
そのため隅木をいれるためには職人の手仕事で座面に沿うようにひとつひとつ削り出していく必要がありました。
コストがかかるため、多くの椅子では隅木をいれないことが多かったようですが、50年ほど使用すると耐久性に差がでてきます。
また隅木を入れることにより、座面の取り外しが容易になり木部を傷めにずにメンテナンスができるというメリットもあります。
50年たった現代、隅木の曲面は機械によって高精度に削り出すことが出来るようになりました。
そのため隅木と座面の密着度も当時よりも隙間無く仕上がり、耐久性能もあがりました。
【脚部の貫】
左が製作者不明のビンテージ。右がAチェアの試作品です。
とても似ている二つの椅子ですが、脚部の貫(ぬき)の位置が違います。
座面を外したところです。
左側の椅子の場合、長く使用すると座面の中央に支えがないためゆがみが生じてきます。
経年により座面の形状変化が見られ、たわみがひどくなっており交換しないといけない状態でした。
それに伴い、脚部の接合部分にもがたつきが出てしまっています。
Aチェアでは長い使用期間を想定しています。
おおよそ100年もつ構造。
そのためには座面を直接支える構造にする必要がありました。
隅木のところでも述べましたが、座面には緩やかな曲面がついています。
50年前であれば、座面と隙間のない貫を作るために手作業で一つ一つ削り出す必要がありました。
Aチェアの貫の構造も、技術革新により安定した生産が実現したといえます。
Aチェアの構造です。
ビンテージの椅子です。
Aチェアに比べ、貫が一本少なく、座面も浮いているため強度に不安がある構造です。
横から見たところです。左がAチェア、右がビンテージ。
Aチェアは座面を支える貫が四本、ビンテージは二本だけです。
ビンテージの方が部材は多いですが構造上強度が弱いことがわかります。
上から見たところです。
座面を支えるための四本の貫にくわえ、四隅に隅木が入っています。
このことにより頑強な構造でありながら、少ない部材で製造することを可能にしています。
【座面】
最後に座面の大きさです。左から、Aチェアの試作品、現行のAチェア、ビンテージの椅子です。
快適に座るために必要な最小のサイズであり、背もたれの曲線と平行のラインを描いています。
座面を支える左右の構造は、少しだけ削ってあります。
不要な座面を削り、構造に関係のない木部は浮かせることで、椅子に浮遊感がうまれ、見た目が軽やかになります。
もともとはフィンユールが好んで使った技法です。
【まとめ】
このように、背もたれ、座面、構造と多くの工夫が凝らされたAチェア。
ビンテージの家具を多く扱い、経年による変化を長く見て来た社長が研究を重ね、的確かつ最小限の構造で耐久性とデザイン性をクリアするにいたりました。
さらに高い技術を実現するため、ラビーダでは国内製造にこだわっています。
Aチェアの製造は山形の株式会社 朝日相扶製作所さんにお願いしています。
結果、品質の安定と価格が実現しました。
さまざまな椅子が世の中には溢れていますが、まっとうな木の椅子をまっとうな価格で販売するためにここまで考えて作っている椅子は日本にはなかなか無いと思います。
AチェアのAは、全ての基本という意味のA。
目指すは日本の椅子のスタンダード。
100年もつ椅子。そのためにメンテナンスをしやすい構造。
椅子に必要な全ての要素はAチェアに含まれているとラビーダは自信を持っています。
長谷川
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